幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
「さっき火恩寺君の伯父さんに話したとおりの、別の世界の火恩寺君のことだけどね」
 別の世界、と口にしたとたん、その存在自体が嘘っぽく思える。
 でも、わたしが『わたしたち』のいない世界を受け入れてしまったら、すべておしまいだ。

「お前の知る俺はきっと、俺とは違うんだろう。ただそれだけのことだ」
「でも、気になるよ。火恩寺君は……」

 火恩寺君は?
 何て言おうとしたのか自分でも分からない。
 けれど、わたしの心の変化はわたし自身が良く知っている。

「?」
「友達だから」
 多分、そういうことなのだと思う。

 おまじないに引き寄せられて、火恩寺君がぶっ飛んだ登場をしてくれなければ、きっとわたしは彼のことを忘れたままだったと思う。
 毎日面倒事に振りまわされて、走り回って気絶させられて……。
 ほとんど痛みと面倒で埋め尽くされた出来事ばかりだ。

 けれど、その中で出会った人たちは、なぜか、失いがたいと思う。
 その人たちに忘れられたら寂しいと思う。
 きっと、それは友達ってことだよね。
< 356 / 395 >

この作品をシェア

pagetop