エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 自分に呆れながら笑顔の練習をしておく。

 この業界に足を踏み入れてから、家の鏡を相手に何度も笑いかけたのを思い出した。

 同時に、少し切ない気持ちになる。

「……最後に心から笑ったのっていつだっけ」

 鏡に映った私は答えず、ただこちらを見つめている。

 本当はいつなのか知っていた。

 かつて婚約者だった四歳年上の彼――北斗にひどい言葉を投げつけてから、もうすぐ五年経つ。私が今年で二十八歳だから、彼は三十二歳だ。

 北斗といる時、私はいつも楽しく笑えていた。

 でも今は違う。

 彼をあんなにも傷つけた私が笑って過ごしていいはずがないと思ったら、上手に笑えなくなってしまった。
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