『絶食男子、解禁』

熱い吐息と切羽詰まったような声音が耳元を甘く侵す。

ブラウスの裾から滑り込んだ指先が素肌を撫でるように這い上がり、下着の留め金部分が弾かれ、ピタリと止まった。

いつだって彼は紳士的だから。
私が傷付けるようなことを言っても、相変わらず優しいから。
激しく求めるようなことはしないと思ってた。

いや、違う。
私がこうなって欲しくて仕向けたのか。
彼を切望した、結果だ。

軽々と抱き上げられた体はYシャツ越しの彼の体温を感じ、熱がどんどんと籠っていくのが分かる。

薄暗い寝室のベッドの上に少し乱暴に下ろされた。
条件反射で胸元を覆い隠そうとした両手をいとも簡単に阻まれ、容赦なくシーツに張り付けられた。

「ごめん、俺、相当余裕が無いかも」

項垂れるように肩先におでこを預けた彼は、少し乱暴に扱ったことを後悔したのか、小さな溜息を零した。

「私も同じだよ。……最後までするのは、本当に久しぶりだから」
「……それはそれで腹立つ」
「え?」
「しっかり経験してますっていう、挑発だろ?」
「……っ」

キュッと結ばれている薄い唇が、緩やかな弧を描く。
焦るような素振りを見せていた彼の瞳に、怪しい光が宿った気がした。

「これからは、嫌な記憶は俺が全部アップデートしてやる」
「っ…」

優しく絡まる指先。
肌を撫でる甘い吐息。

さっきまでの強引さはない。
壊れ物を扱うみたいにそぉっと丁寧に注がれてゆく。

体だけでなく心までも温かく包み込まれ、辛い記憶が彼の優しさで少しずつ上書きされてゆくような気がした。

つぐみの目尻から一筋の涙が溢れ出した。

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