麗華様は悪役令嬢?いいえ、財閥御曹司の最愛です!

 婚約が決まり、最初の顔合わせの日。二人で庭を散歩することになった。当時十三歳の俺と、十歳の麗華。婚約を結ぶには少々早い年頃だったが、俺は嬉しくて仕方がなかった。でも、麗華は違った。

「お互い大変よね」
「え?」
「お金持ちに生まれたからには、政略結婚とかするのかなって思ってたけど、まさかこんなに早く婚約するとは思わなかった」
「……嫌だった?」
「分からない。だってまだ、恋もしたことなかったから」

 彼女は曖昧に笑った。

 俺は違うと言いたかったけれど、言えなかった。謝られるのが怖かった。
 彼女に見合う男になって、彼女に恋をしてもらいたい。俺を好きになってもらいたい。それが俺の目標になった。

 成長期に入り、身長がグンと伸びたことで自然とふくよかだった身体が引き締まってきた。運動を始め、健康的な身体になれるよう心掛け、清潔に見えるよう気をつけた。すると、どんどん周りの態度が変化していく。スペックだけですり寄ってきていた人々に加えて、容姿に惹かれてアタックしてくる女性もグッと増えたのだ。これはとても面倒だった。少しでも気を持たせると泣かれてしまうし、冷たく切り捨てても泣かれてしまう。あいまいに笑うと自称彼女が量産されて怖かった。

 麗華は違った。どんな見た目で会いに行っても、婚約者として接してくれるだけだった。
 焦った俺は、東堂家に頼んで麗華を俺の秘書にした。すると今度は秘書として、もっと距離をとって接するようになってしまった。そうこうしているうちに仕事がどんどん忙しくなり、秘書として有能な麗華に頼りながら駆け抜けること早数年。

 いよいよウェディング事業を手がけて、最高の結婚式を演出しようとしていたところだった。

「婚約破棄、してください」
「はっ?」
「秘書の仕事も退職致します。今までご迷惑ばかりおかけして、申し訳ありませんでした」

 麗華が仕事で珍しくミスをした帰りの車中で、突然切り出した。思いがけない申し出に、頭が混乱する。何か彼女の気に障ることをしただろうか。あの面倒な女の対処を頼り切ったせいだろうか。俺のことが嫌いになったのだろうか。ついこの間、手を握って顔を赤く染める彼女を見たばかりではなかったか。何故だ。何故。理由は分からない。でも、絶対に──。

「無理だ」
「……え?」
「絶対に離さない」

 ごめん。麗華。この想いは拗らせすぎていて、君を話すことなど到底出来ない。君はもう逃げられない。

「君が望むことは何だって叶えてあげる。でも、俺から離れることだけは無理だ」

 彼女の手を強く握る。その強さに思わず手を引いた彼女を、逃がさないと握りしめた。

「婚約破棄は、絶対にしない」
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