君に甘やかされて溺れたい。


「そうなんだ」

「うん、ごめんね」

「ううん。また明日ね」


 ごめんね、藍良くん。
 でもこの靴を見られるわけにはいかないよ……。

 私は靴の泥を水道で洗い流した。
 細かく綺麗にはできないけど、何となく落とせたと思う。

 あとはちょっとだけ干して乾かしてから帰ろう。

 靴を日向に置いて、座ってしばらく『甘恋。』を読むことにした。

 せっかくなら、アイルくんが主人公を助けてくれるあの話を読もう。

 パラパラとページをめくっていたら、突然背後から奪われてしまった。


「!?」

「学校にこんなもの持ってきていいの?」


 私から『甘恋。』を奪ったのは、他クラスの知らない女子たち三人組だった。


「先生に言いつけていい?」

「や、やめて。返して……!」


『甘恋。』は私の大切なバイブルなのに。


「こんなもので藍良の気を惹こうとしてるの?生意気なんだけど」
「抜け駆けしようとすんなよ。藍良はみんなのものなんだから」
「藍良に二度と近づかないって約束するなら、返してあげる」


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