危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
 そうして、東北にある母の実家にしばらく身を置くことにした。
 父はすみれに跡取りのような役目ははなから期待してはいなかったし、仕事やら恋人やら自分の人生でいつも手一杯で、すみれに割り当てられる時間の分量は少なかった。

当時母の実家には、平凡で純朴な祖父母が住んでいた。この家で生まれた母が一体全体どうしてあの父と結婚することになったのか、さっぱりわからない。
 わからないから、やっぱりうまくいかなくて、寿命をすり減らしてしまったんだろうと今では思う。

 蓮と別れて数週間経った頃、突然耐え切れなくなり、仕事帰りに新幹線に飛び乗った。ほかには行く場所がどうしても思いつかなかったし、一人でいるのも限界だったのだ。

 新幹線の中で働いていたデザイン事務所には、体調が悪いからしばらく休職したい、無理ならクビにしてくださいとメールを打った。
 突然メールだけで非常識なのはわかっていたが、もう常識の範囲で行動する余裕もなかった。
 
 在来線を乗り継ぎ、駅からタクシーでようやくたどりついた時には、午後10時を過ぎていた。もし拒絶されたら、どうしよう。時々電話はしていたけれど、そもそも来るのは十二年ぶりだった。
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