危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
まともな会話を交わしたのは、パーティーの時が初めてだが、すみれは彼と出会った時のことを今でも鮮明に覚えている。
印象的なのは目だった。すみれは自分でも絵を描くせいか、人物をどこか分析するように見てしまう癖がある。怖いほど整った顔立ちに浮かぶのは計算しつくされたような微笑み。
立ち居振舞いや、表情の一つ一つにどこか計算されたような隙のなさが感じられた。
話し方は年の割に落ち着いていて、決して前に出すぎないところも父の好みだろうと思った。父は無能な人間がでしゃばるのがなにより嫌いだが、片桐はその正反対の人間に見えた。
なるほど、父が気に入るわけだ。
「なにをぼうっとしている」
父に言われて、はっとする。
彼をモデルに絵を描くことを想像していた。個人的な好みを越えて、これほどの美貌を前に筆を動かしたらさぞかし気持ちいいだろう──そう思った。
「忙しいところ、ごめんなさい。しばらく送迎をお願いします」
ふっと淡く笑んで、片桐は「宝来先生の大切な娘さんをお守りします」と言った。その響きにどこかそらぞらしさを感じたのはすみれの気のせいだろうか。
片桐の存在は、すみれの心の水底に何かを落とし、ゆっくりと波紋を広げた。