唇から始まる、恋の予感
ガラスの心
何があったのか知りたいが、青い顔で横になる白石を見てたまらなく切なくなった。
入社した時からあまりにも個性がなく、存在そのものがないような白石の雰囲気に、
興味が沸いた。その時はただ、どんなやつなんだと、知りたいだけだった。
入社時の成績も良かったし、綺麗で丁寧な字が印象的だった。

「どうなんだ?」
「今は眠っているから後でね」
「大丈夫なのか?」
「心配なのは分かるけど、女の人は、男の人に寝ているところを見られたくないものなのよ。報告するから今は部署に戻って」
「頼むよ、本当に」
「私は医者よ」

大学時代に知り合った植草は、偶然にもファイブスターの産業医になっていた。
大学を卒業したあと、大学病院に勤務していたが、結婚をして子供が生れてから総合病院の医者になり、現在はファイブスターの産業医となった。

「現役の医者であり続けるには、現役が一番だけど、今は子育てを優先したい」

と言っていた。
白石の様子がおかしいと思ったのは、休憩後すぐのことだった。顔色が悪く、気分が悪そうで心配だった。
上司として声をかけるのには問題はなかったが、行動に移す前に彼女はどうやら早退を申し出たようで、デスクから消えていた。


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