唇から始まる、恋の予感
「それ誰のカップ?」

二つのカップを並べてコーヒーの準備をしていた。白石が他人の分まで入れるなんて、大事件だ。

「川崎さんの分です」

なんだと?俺は自分で入れに来たのに、川崎の青二才には入れてやるって言うのか?かっちーんときてしまい、リフレッシュコーナーに来るように言った。

「イライラする」

落ち着け、嫉妬はみっともない。何とか気を取り直したが、結果、俺はまた白石に発作を起こさせてしまった。
少し微笑んでくれたことが、胸をぐっと締め付けられるような、身体が自然と動いてしまうような強い鼓動、熱く高鳴る鼓動、どんな表現も出来ないほどの微笑みだった。遠い過去に置いてきた俺の純情が蘇ったようだった。
そんなに綺麗な微笑みが、白石の発作の原因になるとは思ってもみなくて、嬉しさの頂点から一気にショックへと変わった。どうしてこうやることなすこと裏目に出てしまうのか、これでは好きになってもらえるどころか、自分を傷つける嫌な存在になってしまう。策を練りたいが、白石が何に対して敏感に感じてしまうのか分からなくて、もどかしくて仕方がない。




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