唇から始まる、恋の予感
「聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「白石の顔……え~っと、水越の前で悪いけど、どう思う?」

五代はちらりと水越をみた。

「私は綺麗だと思いますよ。可愛いというより、美人と言った方がいいかもしれません。顔も小さいし、口元にあるほくろがまた色っぽいと思います。肌も透き通るように白くて羨ましいですよ。でも正直言って、いつもうつ向いているから勿体ないと思います」

気を使った水越が先に言ったようだ、さすが秘書と言ったところだろう。先に言えば、五代も水越に気を遣わずにすむっていうものだ。それにしても女というものは、同性の隅から隅まで観察しているものなんだな。なんだか恐ろしい。

「俺も綺麗だと思う。俺は正直言って社員全員の顔を知っている訳じゃないから、ほとんどというか全く知らなかったが、お前に大役を任せられてからは、気に留めるようになったからな」
「それともう一つ」

水越は何を言い出すんだ?
ワイングラスを片手に持ったまま、もう片方の指をピンと立てた。一体、水越は何を言い出すんだ?

「白石さんがかけているめがね、あれ、度が入ってないですよ、伊達メガネです」
「え?」

水越の言葉に、俺と五代は同時にびっくりした。

「レンズを見れば度が入ってないのが分かります。でも、なんで伊達メガネをかけてるんだろうな? あ、分かった!」
「なんだ? 理由が分かったのか?」

水越がピンひらめいたように、パッ明るい表情をしたので、俺は答えを期待した。

「パソコンの画面、ブルーライトカットめがねですよ。一日中パソコンに向かってるから、目の保護の為にかけてるんです」
「じゃあ、なんでずっとかけてるんだ?」

五代は鋭く水越に突っ込みをいれた。

「そうなんですよ、そこが問題なんですよ。全くわからないです」

なんだよ。分かんないのかよ。自信たっぷりに分析してくるから、伊達メガネの理由も分かるものと期待していたのにこれか。

「なんだよ分かんないのか……」
「お前が分からないのに、沙耶が分かるわけないだろう?」

な? と五代は水越に同意を求め、二人でねえと言い合う。まったくやってられないぜ。

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