唇から始まる、恋の予感
「どうしたんだ? 突然」

俺は言うべきか悩んだ。これは彼女の尊厳に関わる問題で、俺に話せる権利はない。

「いや……俺も最高に可愛いと思っているんだが、えっと……自分はブスで醜いとかなんとか言うから」
「まったくの一方通行だったのに、そんな話をするようになったのか? 進歩したじゃないか」

まさかそれが原因で、気を失ったなんて言える訳がないけどな。

「女の人はみんな謙遜しますよ。面と向かってキレイだとか言ったんですか? それなら絶対に『ありがとうございます』なんて言わないです。素直に受け止めるのは外国人だけです」

本当のことを言えないから仕方がないがでも、俺の目はあばたもえくぼじゃないことが確定された。二人によって証明されたんだ。
じゃあ、白石の目には自分の顔はどんなふうに映っているのだろう。
あの時、ジョーカーだとか言っていた。俺の知るジョーカーはあの映画の登場人物しか思いつかない。

「まさかな……」

真剣に悩んでいる傍で相変わらずのイチャ付きぶり。それにしても水越はよく食うな。
それを嬉しそうに見ている五代は、水越に夢中な感じだ。俺よりも長く想いを秘めていて、想いが通じ合っても公にできない関係は、とても苦しいだろう。せめてプライベート空間では好きにしたいはずだ。
それにしても白石はどうして食事を拒むのだろうか。食事に誘って拒んだから、突然で悪かったと反省して、コンビニでおにぎり作戦にでたけど、それもダメだった。
どんなに腹が減っても決して俺と一緒に食べることはしない。
俺がダメなのか? それならかなりのダメージだな。
別に外食じゃなくてもいい、彼女のお気に入りのあの場所で、弁当でもいいんだ。白石には一緒に食事を取ることが何か特別なことに捉えられてしまっているのだろうか。
繊細な白石とは違って水越はバクバク食う。

「幸せそうで何よりだな」

嫌味を言ってやったが水越は、

「分かります? 直哉さんのお料理はとっても美味しくて幸せなんです」

と返事をした。素直なんだか天然なんだか、掴みどころのない女だ。まあ、暫くは五代も飽きずに済むだろう。
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