唇から始まる、恋の予感
ずっと目標にしてきたこと。
身辺を綺麗にするわけじゃないけど、今迄自分の目標に対して行動をしなかったのは、自分の中にどこか整形をしてしまっていいのかという迷いがあったからだ。
お金も十分たまり、計画通りに勧めるのに何もしていなかったのが、いい証拠だろう。
一度に全部の手術は受けられない。術後の経過を見ながらだと、一年は社員として働けない。
手術費の他に家賃１２か月分、月にかかる生活費などを計算しての金額は十分で、次の就職先が見つからなくても安心できる金額が通帳に記載してある。

「ボーナスのお陰ね」

入社してから一度もボーナスを使っていない。全ては整形の為にと貯金に回した。
初任給で両親や妹に何か買ってあげることもせず、銭ゲバのようにひたすら整形の為にお金を貯めた。
部長が告白をしてくれたお陰で、やるべきことをやる決心がついた。
やると決めてからは、心が軽くなったように成し遂げた後のことを考えるようになった。
綺麗で可愛い洋服を買って、美容院にも行く。顔を隠すために前髪をいつも長めにカットしていたけど、ふんわりとパーマをかけてみるのも悪くない。

「最近の流行りは……」

ファッション雑誌や美容雑誌とは無縁の生活だったけれど、世の中の女性はみんな、こういう本で勉強してきれいになっているんだ。

「大丈夫、私にも出来るし、綾香がいるわ」

妹の綾香は私とは違うまっとうな女としての時間を過ごしている。聞けばなんでも教えてくれるだろうし、一緒に買い物だって行ってくれるはず。
部長が赴任してから私は自分と向き合い、また劣等感にさいなまれていたけれど、踏み出す勇気をくれたことには感謝しなくちゃ。
今迄出来なかったことをたくさんやりたい。私には希望しかなかった。
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