唇から始まる、恋の予感
揺れていた気持ちの整理がついて、週末は久し振りにゆっくりとすることが出来た。
いつものように掃除、洗濯をして作り置きのおかずを作る。
私は念入りに計画を立てていた。
整形も全てを一度には出来ないため、生活費を十分に確保し、在宅ワークをするにはどんなスキルが必要か、また、自分の性格にあてはめた職種も探しておいた。
顔は変えられても、一度確定してしまった性格は、そう簡単に変えることはできない。

「貯金と財テク。これだけあればアルバイトでも十分ね」

入社以来、毎月決められた金額で生活をしていた。友達がいないというのは、無駄なお金を使わずにすむし、自分の時間も奪われないしいいことだらけ。

「部長は……」

部長との時間は、あんなに不愛想でそっけない態度を取っていたけれど、冷めきっていた私の心が温かくなった時間だった。

「風が冷たく感じるようになったわ」

燃えるような日差しが照りつけた夏から、ゆるやかに秋、冬に向かっている。朝晩は頬に当たる風は冷たい。
一週間撮りだめた番組を見て、動画の配信も見よう。
そうだわ、読みかけの本も読まなくちゃ。
全てをリセットして、私を取り戻す作業を始める。部長を想い、落ち着かなかった日々はもうすぐ終わる。

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