ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~
どのくらいの間そうしていたのだろうか、私の涙でハサンのパジャマが濡れていった。

高校卒業するのと同時に田舎から出てきて、頼る人のいない東京での暮らしは心細くて大変だったけれど、それでも同じように大阪で頑張っているお姉ちゃんのことを思うと弱音は吐けなくて、歯を食いしばって頑張ってきた。
今まで一度も人前で泣くことはなかった。
それなのに・・・

「凪、落ち着いたら顔を洗っておいで」
背中に手を当てながら、ハサンが言ってくれる。

「ええ、そうします」

いくらなんでもこのままでは人前に出られない。
せめて顔くらいは洗って来ようと、ハサンから離れた。

「ゆっくり行っておいで。僕はその間に彼と話をしておくからね」
「え、でも・・・」

私としてはこれ以上ハサンに迷惑をかけるわけにはいかない。
そう思って何かを言おうとしたのに、

「いいから行っておいで」
ハサンに背中を押されてしまった。

「わかりました」

結局2人に背を向け、私はレストルームに向かった。
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