俺様御曹司からは逃げられません!
「そうだ。楓、後ろ向け」

 唐突に絢人が何かを思い出したらしく、楓の肩を掴んで後ろを向かせた。突然のことに楓が呆気に取られていると、首元にヒヤリと金属が滑る感触がした。

「ネックレス……?」

 いつの間にか首元はネックレスで華やかに飾られていた。
 ゴールドのチェーンの先には、太陽の光を浴びたような鮮やかな煌めきを放つ花のモチーフが揺れている。
 尖った花びらの部分には淡い黄色の宝石が散りばめられており、中央には透き通るような茶色の水晶があしらわれていた。その輝きに楓は思わず目を奪われる。

「綺麗……。ひまわり、ですか?かわいい」
「やっぱり楓に似合うな」

 絢人は口元に笑みを湛え、得意げにしている。

 部屋に用意されていた服や小物は佐伯が手配したと言っていた。でもこのネックレスは……?

 心臓がまたトクトクと早いリズムで鼓動を刻み出す。
 どこか期待を孕んだ眼差しで彼を見つめると、噛み付くように口付けられた。
 このまま彼に頭から食べられてしまうのでは、と錯覚しそうになる。しかし、それでもいいと思えた。

 妖艶に楓の唇を舐めた絢人は、そのまま楓の耳元に唇を寄せた。

「戻ったら、覚悟しとけよ」

 その瞬間、楓は身震いした。
 鎖でがんじがらめにされたように、指一つ動かせなくなる。
 もう、楓は絢人のモノなのだ。彼の不遜な物言いが、楓にそれを強く自覚させた。
 己に待ち受ける耽美なひとときの予感に楓の中心が甘く疼く。顔を真っ赤に染め上げた楓は、コクリと小さく頷いた。

 その夜は、楓にとって忘れられない一夜になった。
< 27 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop