余命宣告された私が出会ったのは、キスで寿命を伸ばすことのできる人でした。
感情が高ぶり、思わず怒鳴ってしまう。


自分が考えていることと医学が全く別物であることは理解していた。


だけど納得できない。


どうして医学で延命できても、それ以外で延命させることは許されないのか。


「落ち着け。とにかく間違ったことはするな」


「俺は間違ったことなんてしてない!」


大樹は怒鳴りつけるようにそう言うと、勢いよく部屋を飛び出した。


兄なら理解してくれると思っていた。


医学が追いつかないのなら、自分の力で相手を助けたいと思うのは普通だ。


そして、大樹にはそれが可能な力があった。


それなのに……。


病院の中庭までやってきて外の空気をめいいっぱい吸い込んだ。


ここには生と死が渦巻いている。


清潔を保ち、いい香りを振りまいてそれを隠しているだけだ。


だけどそれらは時折隠しきれなくなって、誰かの悲しみの泣き声だったり、新しく生まれた生命の泣き声だったりが響き渡る。


「医者はよくて、なんで俺はダメなんだよ」


グッと拳を握りしめて空中を睨みつけるのだった。
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