「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
予言が悪いものであるなら排除のために対策をとるが、今回はそうではないのでなにもしていない。
彼の一族には特別な力――神通力がある。
当然、次代の長である彼にも力があり、一族最強とも言われている。が、おばばのそれとは種類が違い、予言の力はない。
それでも、今夜は胸がざわついて落ち着かなかった。
なにかが起きる。
その確信だけが、今の彼を動かしていた。
胸に正体のつかめない焦燥が募っていた。
早く、早く見つけなければ。
気は逸るばかりだ。
だが、いったいなにを見つけるというのだろう。
ホテルでじっとしていられず、こうして夜の散歩に出たのだった。
ただ気持ちの赴くまま、歩き続けている。
ふと見上げた月には、暈がかかっている。
「見ろ、月暈だ。白虹ともいう」
青年は男の子に教える。
男の子は空を見上げた。
グレーの空に誇らしげに輝く月。その周りを銀色の雄大な円環が囲っていた。薄くまとわりつく雲はまるで炎のようにふちどる。
「月の暈だ。あれを見ると幸運が訪れるのだそうだ」
「すごい! 初めて見た! じゃあやっぱり若様にいいことがあるのかな」
「お前にもいいことがあるよ、きっと」
青年は穏やかに微笑した。
実際にはそれはただの自然現象だ。巻層雲というごく薄い雲が月を覆い、雲の中の氷晶に月光が屈折しているだけにすぎない。これが出ると翌日は雨になるという。
涼しい風が冴え冴えと渡り、河原のススキがまたざわめいた。
* * *
同じ夜の下を、桜庭萌々香は上機嫌で歩いていた。
ハロウィンを翌日に控え、街は浮かれていた。
オレンジ、紫、黒のガーランドフラッグがあちこちから垂れ下がり、にたにたと笑うカボチャの置物やイラストがあちこちに飾られている。
街中で出会ったおばけたちは誰もが陽気だった。
魔女と骸骨がハイタッチをして、仮面をかぶった殺人鬼はゾンビとハグをする。そんな夜だった。
彼の一族には特別な力――神通力がある。
当然、次代の長である彼にも力があり、一族最強とも言われている。が、おばばのそれとは種類が違い、予言の力はない。
それでも、今夜は胸がざわついて落ち着かなかった。
なにかが起きる。
その確信だけが、今の彼を動かしていた。
胸に正体のつかめない焦燥が募っていた。
早く、早く見つけなければ。
気は逸るばかりだ。
だが、いったいなにを見つけるというのだろう。
ホテルでじっとしていられず、こうして夜の散歩に出たのだった。
ただ気持ちの赴くまま、歩き続けている。
ふと見上げた月には、暈がかかっている。
「見ろ、月暈だ。白虹ともいう」
青年は男の子に教える。
男の子は空を見上げた。
グレーの空に誇らしげに輝く月。その周りを銀色の雄大な円環が囲っていた。薄くまとわりつく雲はまるで炎のようにふちどる。
「月の暈だ。あれを見ると幸運が訪れるのだそうだ」
「すごい! 初めて見た! じゃあやっぱり若様にいいことがあるのかな」
「お前にもいいことがあるよ、きっと」
青年は穏やかに微笑した。
実際にはそれはただの自然現象だ。巻層雲というごく薄い雲が月を覆い、雲の中の氷晶に月光が屈折しているだけにすぎない。これが出ると翌日は雨になるという。
涼しい風が冴え冴えと渡り、河原のススキがまたざわめいた。
* * *
同じ夜の下を、桜庭萌々香は上機嫌で歩いていた。
ハロウィンを翌日に控え、街は浮かれていた。
オレンジ、紫、黒のガーランドフラッグがあちこちから垂れ下がり、にたにたと笑うカボチャの置物やイラストがあちこちに飾られている。
街中で出会ったおばけたちは誰もが陽気だった。
魔女と骸骨がハイタッチをして、仮面をかぶった殺人鬼はゾンビとハグをする。そんな夜だった。