「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜

 * * *

「まったく、お前というやつは」
 ホテルの一室で、尊琉はあきれて恵武を見下ろした。

「ごめんなさい」
 耳としっぽが出た状態で、恵武はしゅんとうなだれる。

 恵武は妖怪狸の一族だ。妖力はさほどない。龍天院の一族に昔から仕えていて、彼自身もそのつもりでいるのだが、結局は尊琉が面倒を見ている。

 先ほどは興奮した恵武が耳としっぽを出してしまっていたため、とっさに神通力を使ってホテルに戻って来てしまった。ハロウィンだという言い訳もできるはずが、ついいつもの癖で隠す方向で動いてしまった。

 その後再度萌々香の店に行ったのだが、すれ違ってしまって会えなかった。
 彼女には神通力のこもった鱗を渡したから、いつでも場所はわかるようになっている。あとでまた会いに行けばいいか、といったんホテルに戻って来たところだった。

「だから本当は出張に連れてきたくはなかったんだ」
「だけど、オレ、お目付け役で……」

 かつて尊琉の母が冗談で言ったことを真に受けて、それ以来恵武はお目付け役の任務があるのだとずっと思いこんでいる。
 尊琉も弟同然の恵武を無碍にできずについ甘やかしてしまうのだが。

「正体を知られたら困るのはお前だけじゃないんだぞ」
「気をつけます」

「このあとは帰るまで外出禁止だ」
「ええー!」
 恵武は抗議の声を上げた。

「もう日も暮れた。でかける用事などない」
「だって、返事を聞きに行くんでしょう?」

「俺が一人でいく」
 尊琉が言うと、また恵武は抗議した。
「そんなあ! オレもあのお姉さんに会いたい!」

「野暮なことを言うな。一人前のお目付け役なんだろう? だったらこういうときに邪魔をしない、くらいのことはできないとな」
 言われて、恵武は押し黙る。
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