「トリックオアトリート」ならぬ脅迫または溺愛! 〜和菓子屋の娘はハロウィンの夜に現れた龍に強引に娶られる〜
 三人すれすれで落ちた車は、ぐしゃりと正面が潰れる。
 三人は恐怖で気絶した。

 龍はにやりと笑って尊琉の姿に戻った。
 萌々香は驚きすぎて声もない。

 目の前で起きていることが現実とも思えなかった。
 尊琉は萌々香を横抱きに抱いた。

「少し飛ぶぞ」
 尊琉が宣言した直後、体が浮いた。

 空を飛んでる!?

 萌々香は思わず尊琉にしがみついた。
 地上を見る余裕などなかった。
 尊琉はふっと口の端に笑みを浮かべた。

 月を背に飛んだ尊琉は、少し川上に行ったあたりで降りた。

 萌々香を腕から降ろす。
 だが、萌々香は立っていられずにぐらりと揺れ、尊琉は抱きしめるようにして萌々香を支えた。

「どういうことなの……?」
「あいつらはハロウィンに龍のコスプレをした人間と出会い、喧嘩をふっかけたが負けた。その後、車が事故をおこした。それだけのことだ」

「コスプレって……」
「警察はおそらくそう処理するだろうな」

 だが、それでは尊琉の気がすまないので、肋骨を数本折っておいた。目に見えるケガだと萌々香が気にしてしまうだろうという尊琉の配慮だった。車もつぶしたし、これで当分は悪さもできない。大事故として警察も介入するだろうから、その際にはナイフの持ち歩きもバレる。
 気の利いた警官なら凶器準備集合罪で逮捕してくれるかもしれないが、そこまでは望めないだろう。とはいえ、銃刀法違反にはあてはまるだけの刃物だったから、なんらかのお咎めはあるだろう。

 さきほど見た非現実的な景色と警察という現実的な単語が頭の中でうまくかみ合わず、萌々香は目を瞬いて尊琉を見た。

 尊琉は不敵な笑みを萌々香に見せる。
「だが君は違う。俺の姿も力も見た。そのままにはしておけない」

 尊琉はおごそかに告げる。
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