だから聖女はいなくなった
 それ以上、どう答えたらいいかがわからなかった。来ないと言い切って、彼らの期待を奪うようなことはしたくない。だからといって、嘘もつきたくない。

「この字は、ここを少しはねたほうがいい」

 無理矢理、話題を変えた。

 とりあえず一通り子どもたちの様子をみておきたい。次は編み物をしている子どもたちへと足を向けた。

「きれいに編めているね」

 サディアスが声をかけると、女の子はぽっと頬を赤らめた。

「あの、サディアス様」

 女の子は頬を赤らめたまま、サディアスを見上げた。

「なに?」
「サディアス様は、編み物がわかりますか?」
「ごめん。僕は、編み物をしないから」
「そうですか。ちょっとわからないところがあったので、教えていただきたかったのです。ラティアーナ様が来てくださらないので……」

 ここでもラティアーナである。子どもたちにとって、ラティアーナが教師役だったのだ。

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