だから聖女はいなくなった
 思い出したようなキンバリーの呟きが、胸にグサリと突き刺さった。それでもなんとか笑みを浮かべ、話題を変える。

「それで兄上。その孤児院の件なのですが。ラティアーナ様は子どもたちに食料や衣類などを寄付していたそうなのです。それに、子どもたちが作ったレース編みとか、そういったものをバザーで売って資金にしていたようなのですが……」

 キンバリーがサディアスの言葉の先を奪った。

「お前の言いたいことはわかった。ラティアーナがいなくなった今、それらが期待できないということだろう? すぐに、食料と衣類は手配する。バザーの件は、協力してくれそうな夫人を探しておこう」
「ありがとうございます」

 サディアスは礼を口にしたが、それでもキンバリーの顔は晴れないままだった。眉をひそめ、きつく唇を閉じている。
 ラティアーナが姿を消してから、問題ばかりだ。

 神殿に行きたがらない聖女。腐敗臭漂う竜。
 資金が不足している孤児院。指導者を失った孤児院の子どもたち。
 そして、消えた金。

 すべて解決しなければ問題であるが、どこから解決すべきなのかわからない。一つ一つの問題は独立しているように見えるが、それでも微妙に何かに絡まっているようにも見える。

 ラティアーナは今、どこにいるのだろう。そして、何をして、何を想っているのだろうか――。
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