だから聖女はいなくなった

2.

◇◆◇◆◇◆◇◆

 テハーラの村は、王都から陸路を使うよりも航路を使ったほうが早い。それは、レオンクル王国が、海に面した国であり、弓なりのような形をしているためである。そして王都がレオンクル王国の北側にあって、テハーラの村が南側にあるからだ。
 王都からは三日ほど船に揺られ、降りた港から二時間ほど馬車に乗って着いた先にテハーラの村がある。

 村の入り口で馬車を降りると、モォー、モォーと牛の鳴き声に出迎えられた。

「サディアス様、まずは村長の屋敷へと向かいましょう」

 連れて来た侍従は二人。目立つ行動はしたくなかった。船の中でも、サディアスをサディアスであると気づいた者はいないだろう。髪と顔を隠すかのようにフードを深くかぶっていた。

「そうだな」

 侍従の言葉に従い、サディアスものんびりと歩き出す。手にしている荷物も最小限である。

「本当に田舎……長閑なところですね」

 侍従の言葉を聞きながら、サディアスは大きく首を振った。右手のほうには地平線が見える。その手前には、牛が放牧されているのか、白と黒の塊が数えきれないほどいる。先ほどから聞こえる声の主だろう。

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