だから聖女はいなくなった
 ふたたび扉が開くと「若旦那様がお会いになるそうです」とのことで、中へと招き入れられた。

 テハーラ村がレオンクル王国の一部になったのも、ここ数十年のことだと聞いている。だから国直轄の村であり、その村をまとめている村の代表を村長と呼んでいる。
 村が国の一部となったとき、当時の国王は村長に男爵位を授けた。
 それが今の村長の前の村長であると記憶している。
 男爵位は一代限りのものであるため、村長が村長になるときに、国王はその村長に男爵位を授けている。

 村長の屋敷といっても、しょせんは田舎の屋敷であり、内装もどこか野暮ったく感じる。それでも掃除は行き届いていた。

「どうぞ、こちらの部屋です」

 ホールを抜けて応接間へと案内された。

「すぐに若旦那様が来ますので、こちらでお待ちください」

 サディアスはソファにゆっくりと腰をおろした。侍従たちは、彼の後ろに並んで立つ。
 この光景で、案内した使用人も関係性を把握したのだろう。
 手早くワゴンを運んできて、サディアスの前にだけお茶と菓子を置く。

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