だから聖女はいなくなった
「お待たせして申し訳ありません。カメロン・キフトです」

 そう言ったカメロンは使用人に目配せをした。彼女は一礼して、黙って部屋を出ていく。

「まさか、サディアス殿下自ら、こちらに来てくださるとは思ってもおりませんでした」

 サディアスが名乗る前から、彼はサディアスがサディアスであると見抜いたようだ。

「そんな不審な目でみないでください。金色の髪と葡萄色の瞳。レオンクル王国の王太子殿下と同じですよね。それに、侍従を連れてまでこんな辺鄙な田舎にくるとなれば、その王太子殿下の弟であるサディアス殿下である可能性が高いと、そう考えただけです」

「そうですか。では、何も隠す必要はなさそうですね。あらためて自己紹介をさせてください。僕はサディアス・レオンクルです」

 カメロンは微かに口元をゆるめている。だが、その目は笑っていない。サディアスを警戒しているのだろう。

「それで、サディアス殿下はなぜこちらに? わざわざそのように身分を隠してまで。まぁ、こちらとしては、そうやって隠れるかのように足を運んでくださって、助かりますけどね」

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