だから聖女はいなくなった
 サディアスは手紙をしまった。
 てっきりラティアーナはこの村に戻ってきていると思ったのに、いないと言う。
 神殿にもいない、孤児院にもいない、王都にはいない。だから彼女の生まれ育った故郷へとやってきた。
 それでもここにもいない。
 彼女はどこに行ってしまったのか。

「ところで、サディアス殿下。今日、御泊りの場所は決まっておりますか?」

 カメロンに指摘され、宿泊については何も考えていなかったことに気づく。ラティアーナに会いたい一心で、ここであれば彼女に会えるだろうと、そんな逸る気持ちでこの地を訪れたからだ。

「……いえ。それは、これから」
「では、ここにお泊りください。すぐに部屋を用意させます。王都からですと、航路で来られたのですか」
「あ、はい。そうですね」
「長旅でお疲れでしょう?」

 カメロンは呼び鈴を鳴らして使用人に部屋の用意をするようにと言いつける。
 彼がなぜ、これほどまで態度を軟化させたのかがわからない。

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