だから聖女はいなくなった
 しばらくカメロンとお茶を飲みながら、話をする。主にテハーラ村の現状である。
 最近は、畜産業が軌道にのっているため、貧しい思いをする者もいない。むしろ、忙しすぎて人手が足りないくらいだと。

「このような小さな田舎の村で、こうやって穏やかに暮らせるのがなによりです」

 カメロンの言葉がサディアスの心にズキンと突き刺さった。
 きっとそういった生活を壊すようなことをしてはならないのだ。
 数年前に神官がこの村に来たことをカメロンはよく思っていない。それは言葉の節々から感じ取れた。
 だから、カメロンがサディアスを警戒していたのは、今までの生活をがらっと変えてしまうような、何かが起こると思っていたからかもしれない。

「サディアス殿下。部屋の準備が整ったようです。案内します」

 応接間を出て、ホールからサルーンへと入る。すると、どこから歌が聞こえてきた。

「……?!」

 サディアスが反応すると、カメロンは「中庭に子どもたちがいるので」と答える。

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