だから聖女はいなくなった
 手を横に振ったリビーに、サディアスも手を振り返した。
 リビーの姿が見えなくなると、一気に静かになったような気がした。

 風に吹かれて揺れる草木のこすれ合う音が、異様に大きく聞こえる。

「ラティアーナ様。お久しぶりです」

 彼女と向き直り、サディアスは震えそうになる声をなんとか喉の奥から絞り出した。

「お久しぶりです、サディアス様。ですが、私はもう聖女ラティアーナではありません。ですから、どうかその名で呼ばないでください。それは、私が聖女となるときに、神殿側が勝手につけた名前なのです」

 ラティアーナの名はラティアーナではなかった。
 また、知らなかった事実に身体が震える。

「本当の名をお聞きしてもよろしいですか?」

 彼女はその言葉に静かに頷いた。
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