だから聖女はいなくなった
エピローグ
『サディアス様。国を庇護する竜。あれは、本当に国を庇護しているのでしょうか? そのようなことを誰が言い始めたのでしょう?』

 それは昔からの言い伝えだ。
 この国は、竜によって庇護されている国であると。

『竜がいなかったらと、考えたことはありませんか? 不思議ですよね。竜が目覚めると厄災が訪れるのです。そしてそれを鎮めるために聖女が犠牲になるのです。歴代の聖女がどうなったか、サディアス様はご存知ですか?』

 そう言って、彼女は愛おしそうに膨れた腹部をなでた。大きなお腹の中で、新しい命が動いているのだろう。

『竜の力を用いてレオンクル王国を助けた後、聖女は竜にパクリと食べられてしまうのですよ? 聖女を食べた竜は、満足して眠りにつくのです』

 厄災の話になると、関係者は誰もが口を閉ざす。

『サディアス様。厄災はすでに始まっております。竜のうろこは、穢れに覆われています。アイニス様が竜のうろこを磨こうが磨かない、関係ないのです。厄災は目覚めた竜の気まぐれによって起こります』

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