だから聖女はいなくなった
 膝の上で握りしめられている彼の手が、わなわなと震えている。

「そうしたら、神官長はなんと言ったと思う? 寄付した金で、神殿での暮らしはよくなったと言う。だが、ラティアーナの姿を見てその言葉が信じられるか? それに……彼女のドレスが突然、派手になったのをお前も心当たりはないか? 寄付した金で、新しくドレスを仕立てたようだ。どうやら、私が金を寄付したと知ったラティアーナは、そうやって私的に使っていたんだよ」

 そこで、軽く息を吐く。

「アイニスからも言われてしまった。どうやら世間では、私がラティアーナにドレスを贈ったことになっているらしい。本来の目的とは違う金の使われ方をしたのに、私にはそれを否定する気力さえなかった」

 サディアスは記憶を掘り起こす。
 いつも簡素な巫女用の服で王城に来ていたラティアーナだが、あるときを境にドレスのデザインが変わった。それをいつもの庭園で指摘したところ、神殿からそのドレスを着て王城へ行くようにと言われたとのことだった。だが、それだって派手なドレスではない。豪奢でありながら、どこか落ち着いた雰囲気の、彼女に似合うようなドレスでもあった。色が淡いからそう見えたのかもしれない。

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