だから聖女はいなくなった
 キンバリーが彼女のためにそこまで考えていたのを、サディアスは知らなかった。だからこそ、なぜ婚約破棄の流れになったのかが理解できない。

 今の話を聞いただけでは、明らかにキンバリーはラティアーナに好意を寄せている。

「神殿側は私の話を引き受けてくれた。だが、ラティアーナは竜の世話があるから、神殿にいてもらわないと困るとのことだった。だから、私からの寄付を受け入れ、食事をもう少しまともにするとも約束してくれた」
「よかったではないですか。兄上にとっても、ラティアーナ様にとっても」

 そこでキンバリーは顔の下半分を手で覆う。何かを思い出すような仕草にも見える。言いにくいことなのか、言いたくないことなのか。
 その手の隙間から、小さく息がこぼれた。手を膝の上に戻す。

「それでも、ラティアーナの身体は貧相なままだった……」

 サディアスも記憶の中の彼女を探る。初めて会ったときも、国王の即位二十周年の式典で顔を合わせたときも、彼女の体型はさほどかわっていない。キンバリーの言う通りである。彼の言葉を借りるのであれば、貧相であった。

「だから私は、もう一度神殿へ足を運んだ。神殿で生活している者たちに、まともな食事を与えるために寄付をしたのだと神官長にも詰め寄った」

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