だから聖女はいなくなった
「わたくしは、聖女だからキンバリー殿下と婚約いたしました。ですが、婚約を破棄された今、わたくしが聖女と名乗るのもおこがましいというもの。ですからアイニス様。これからはキンバリー殿下の婚約者として彼を支え、聖女としてこの国を豊かな未来へと導いてください」

 凛とした声でそう告げた彼女は、玉座の国王に身体を向ける。
 そこにいる誰もが、彼女から目を離せない。

「国王陛下。即位二十周年おめでとうございます。私的なことでお騒がせして申し訳ありませんでした」

 まるで手本のような淑女の礼をした彼女は、くるりと向きを変え、会場の外へと向かって歩き出した。
 堂々としたその姿は、彼らの目にも焼き付いている。





 これが、彼らが聖女ラティアーナを見た最後の姿でもあった。
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