だから聖女はいなくなった
だから彼女と別れた

1.

 サディアスは、十八年前にレオンクル王国の第二王子として生を受けた。将来はこの国の国王となる兄、キンバリーの予備のような存在でもある。
 幼い頃から、自分の立場を理解していたつもりだ。だから、その立場に異論も反論も何もない。兄を支えるのが、自分の役目であるとも理解している。

 レオンクル王国は竜の庇護を受け、竜の世話人とも呼ばれている聖なる乙女――聖女によって豊かな国土を保っている。それでも、残念ながら数十年に一度は厄災に襲われている国でもあった。

 厄災といっても自然災害である。
 大雨が降り、川が溢れ、家屋が沈む。強い風が吹き、実のなった農作物を奪い去る。もしくは、雨が降らずにカラカラの日照りで農作物が育たない。虫が大量に発生して、作物を食らいつくす。
 そういった厄災が訪れると言い伝えられているし、実際に数十年に一度、そのような災害が起こっている。

 いくら竜や聖女といえども、自然の摂理には抗えない。くるべき厄災に対策を行いつつも、それから救ってくれるのはやはりこの国を古から守り続けている竜であり、それの手伝いをするのが聖女の役目でもあった。

 そのため聖女は『済世の聖女』とも呼ばれているのだ。

 サディアスが、その聖女と初めて出会ったのは、今から二年前になる。

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