だから聖女はいなくなった
 イーモンが年の離れた妹を使って、貴族ともっと深いつながりを持つことを企み始める。
 手っ取り早いのはアイニスを嫁がせること。こちらの資金をちらかせればいい。金が欲しい貴族どもは食いつくのではと、彼は考えた。

 だから彼女がウィンガ侯爵の養女となったのもイーモンの作戦である。ウィンガ侯爵は、先代侯爵が早くに亡くなったことで、若くして侯爵位を継いだが先代ほどの技量はなかった。だから、イーモンに丸め込まれた。

 それでもウィンガ侯爵は、いずれは十八歳年下のアイニスとの結婚も考えていたようだが、イーモンは侯爵以上のとのつながりを狙っていた。

 侯爵令嬢という立場を手に入れれば、王城へと足を運ぶ機会も訪れる。現にウィンガ侯爵が自由に出入りできる、そういった立場にあるのだ。

 イーモンの目論見はうまくいく。

 王太子キンバリーが聖女と婚約したという明るい話題が駆け巡ったのは、アイニスが十七歳のときである。
 イーモンはウィンガ侯爵に、アイニスと聖女がどうにかしてつながれないかを相談すると、やはり彼は王城に出入りしているだけのことはあった。
 アイニスを聖女の相談相手として紹介するとのこと。聖女は神殿暮らしが長いため、貴族とのつながりがないのだ。

 そして、聖女の話し相手として地位を手に入れたアイニスは、ラティアーナとサロンでお茶を楽しんでいた。
 彼女との初顔合わせである。

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