だから聖女はいなくなった

2.

◇◆◇◆◇◆◇◆

 サロンに足を向けると、ラティアーナがアイニスとお茶を嗜んでいるときもあった。

 ラティアーナが王城に来るという情報は、いつの間にかアイニスまで伝わっているようだ。彼女はウィンガ侯爵の娘だから、そういった情報も簡単に手に入るのだろう。むしろ、ウィンガ侯爵が流しているにちがいない。

 二人はお茶菓子に手を伸ばしながら、何かしら会話を楽しんでいた。
 アイニスの手は、いつも忙しなく動いていた。気に入った菓子でもあるのだろうか。
 それに引き換え、ラティアーナは時折カップに手を伸ばして喉を潤す程度で、菓子には手をつけない。

 アイニスもそれに気がついたのか、ラティアーナに菓子をすすめている。だが、彼女はやんわりとそれを断っていた。
 二人の仲はよさそうに見えた。いや、アイニスが一方的にラティアーナを慕っているようにも見えた。

 ただラティアーナは誰に対してもあのような態度をとるのだ。
 一線を引いたような、一歩下がったような態度。自分の領域には他人を寄せつけないような態度。

 その領域に踏み込めるような人間はこの世に存在するのだろうか――。


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