だから聖女はいなくなった
 ラティアーナが聖女でなくなり、その聖女という名を受け継いだのはアイニスである。
 理由は明確。アイニスがラティアーナから『聖女の証』と呼ばれる首飾りを受け取ったからだ。
 聖女はこの『聖女の証』と呼ばれる首飾りを授与されて、聖女となる。

 歴代の聖女たちは、不幸な事故で命を失った者も多く、聖女から次の聖女へとその首飾りが渡ることはなかった。聖女が亡くなると、首飾りは神殿が預かり、そして次の聖女として相応しい女性にその首飾りを授ける。

 聖女であるラティアーナ自らアイニスに首飾りを渡したのは、前例がなかった。
 それでも聖女自身が認めた次期聖女とのことで、神殿は仕方なくそれを受け入れたようだ。

 神殿としては、ラティアーナはその命がある限り、聖女とあってほしかったのだろう。そんな思いがひしひしと伝わってきた。

 聖女となり王太子キンバリーの婚約者となったアイニスの生活は一変する。むしろ、今までラティアーナが行ってきた内容をこなす必要があるのだ。

 けれどもアイニスは、頑なに神殿で生活することを拒んだ。
 その結果、竜の世話をするときだけ神殿へ行くということで神殿側と合意した。それには、キンバリーの力も働いているにちがいない。むしろ、国の力か。

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