だから聖女はいなくなった

4.

 応接室を出ると、神殿の奥にある竜の間を目指す。
 奥に行けば行くほど、回廊には石膏の柱が並び、先ほどまでいた場所と比べても年代を感じた。

「このような場所に、聖女の部屋があるのですか?」

 そう問うてしまうほど、この場所は寂しい。人の息遣いも聞こえず、無機質な柱が並んでいるだけなのだ。床も石でできているため、どことなく冷たい感じがする。

「竜王様は昔からここにいるのです。ですから、こちらの建物に手をくわえるようなことはいたしません。もちろん、修繕ぐらいはいたしますが」

 カツーンカツーンと足音が響き、その音すら虚しく聞こえた。
 ラティアーナは、どのような気持ちでこの場所で時間を過ごしたのだろう。アイニスは、この空間に耐えられるのだろうか。

「ここが竜の間です」

 銅製の扉を開けると、解放感溢れる大広間に竜が寝そべっていた。その大広間ですら、今までの回廊と同じように白い石で造られている。

 だが、目の前に竜がいるというのに、サディアスは顔をしかめたくなった。
 原因はこの腐敗臭だ。解き放たれるようなこの場所であってもなお、においが漂っている。
 竜は大きな身体を、広間のど真ん中に横たえていた。人間でいうところの、寝そべっている状態に近い。

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