だから聖女はいなくなった
「聖女が側にいないと、竜王様はこのように汚れてしまうのです」
「聖女がうろこをみがくと聞いていますが。アイニス様は、きちんと三日に一度、務めを果たしておりますよね?」
「それが最低頻度なのです。ラティアーナは毎日みがいておりましたよ。たしか、明日がアイニスの来る日でしたね」

 そう指摘され、アイニスが一作昨日に嫌そうにしながら馬車に乗り込んでいた様子が、脳裏をかすめた。

「聖女の必要性は理解しました。このまま放っておくと、竜は腐敗に飲み込まれると考えてよろしいのでしょうか」
「そうです。そしてそれと同時にこの国に厄災が訪れます。二十年ほど前のように」

 サディアスが生まれる前であるが、大寒波がレオンクル王国を襲い、寒さと飢えにより、多くの国民が命を失ったと記録されている。それが厄災と呼ばれているものなのだ。

「そうならないように、できるだけアイニスには神殿にいてもらいたいのです」

 聖女の必要性は理解した。竜をこのままにしておくのはよくないのだろう。そしてこの状態の竜を助け出せるのが聖女だけだとすれば、聖女の手にこの国の運命がかかっていると表現してもいいのかもしれない。

「アイニス様が兄と結婚すれば、向こうで暮らすようになりますが?」

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