だから聖女はいなくなった
 結婚した後も、アイニスだけここで暮らすというのはおかしいだろう。
 その結婚が、王太子と聖女の結婚という書類上の契約だけがほしいのであれば別であるが、アイニスは今、王太子妃となる教育も受けている。

「そのときはきっと、竜王様が次の聖女をお探しになるかと」

 腐敗臭漂うなか、竜が少しだけ身じろいだように見えた。

 サディアスは竜の全身を見回した。確かに、ところどころ汚れている。
 竜は、ふたたび静かになった。ピクリとも動かないので、大きな置物のような存在にも見えた。
 この竜が動くのは、どのようなときなのか。
 どうやって、この国を庇護しているのか。
 気になるところであるが、聞いても教えてはもらえないだろう。そんな雰囲気が漂っている。

 サディアスは隣の神官長に気づかれぬように、そっと息を吐いた。
 竜の様子も確認した。神官長からは必要な情報を聞き出した。
 といっても、それが有益なものであったかは別である。

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