だから聖女はいなくなった

2.

◇◆◇◆◇◆◇◆

 サディアスは、ラティアーナが定期的に訪れていた王都のはずれにある孤児院を訪れていた。
 以前は教会であった建物を、改装したものである。といっても小さな教会であったため、礼拝堂のあった場所は子どもたちがいっせいに集まる場所として使われている。

「サディアス様、わざわざ足を運んでくださいましてありがとうございます。子どもたちも喜びます」

 そう言って彼を迎えてくれたのは、孤児院で働くマザー長である。孤児院で働く女性はマザーと呼ばれているが、それを取りまとめているのがマザー長なのだ。

「ラティアーナ様がいなくなられて、子どもたちも寂しがっておりまして……」

 その一言でラティアーナがどれだけこの孤児院で慕われていたのかがよくわかる。

 案内された場所は執務室の一画にある、応接の場。部屋数も少ないため、マザーたちが仕事をしている部屋の一画が、こういった客人を迎えるような場所となっている。もともと、教会の集会室であった場所だ。

 整理された机が六つほど並んでおり、そこでマザーたちは事務仕事を行う。それは帳簿だったり、食事のメニュー表だったり。食料の在庫の確認や、子どもたちの衣類が足りているか。建物内に修繕の必要なところはないか。次のバザーには何を出すか。
 そうやって、金は出ていき、金を手に入れる。些細な金の流れではあるが、孤児院にとっては大事な収支である。
 この部屋には今、マザー長とサディアスの二人しかいない。他のマザーたちは、子どもたちに付き添っているのだろう。

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