だから聖女はいなくなった
「やはり、ラティアーナ様はこちらにはもう、来られていないのですか?」

 もしかしたら、ラティアーナは孤児院にいるかもしれないし、孤児院を訪れているかもしれない。そんな淡い期待を抱く。

「そうですね。聖女様をお辞めになったと聞いてからは、お姿を見ておりません」

 だが、期待していた答えは得られなかった。やはり、孤児院でさえもラティアーナの行方は知らないようだ。
 彼女の足取りのヒントになるようなものはないだろうか。

「ラティアーナ様は、こちらでどのようなことをされていたのですか?」
「特別、かわったことはされておりませんよ。子どもたちに本を読んであげたり、一緒に遊んだりと、本当に些細なことです」

 マザー長の穏やかな顔を見れば、ラティアーナがどのように思われていたのかがよくわかる。

「それに、さまざまなものも寄付いただきまして」

 ラティアーナは、子どもたちの健やかな成長を願って、食料や服なども寄付していたようだ。
 だが、サディアスはふと考える。
 ラティアーナが寄付した物の出どこはいったいどこだろう。彼女は神殿で暮らしていたから、資金があるとは思えない。それに、両親も亡くなったと聞いている。
 彼女が孤児院へ寄付していた物は、どうやって手に入れた物か。
 そんな疑問が沸いてきたが、それを口にすればマザー長を悩ませるだけだ。サディアスはこの考えを、心の奥底にしまい込んだ。

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