音のない「好き」
(……ムカつく!!ムカつく!!ムカつく!!)

そう大声で叫びたい気持ちをグッと堪え、鈴本雪(すずもとゆき)は会社を出て歩く。言葉で苛立ちを表せない代わりに、雪は足音をわざと大きく立てて歩いた。こんなにも今、雪の中に怒りがあるのは、昼間に付き合っている恋人から送られてきたメッセージである。

『ごめん。会社の後輩を妊娠させちゃったから、結婚することになった。別れてほしい』

あまりにも突然のメッセージに雪は混乱し、社員食堂でまだ生姜焼き定食を食べている途中だというのにそれを放置し、慌てて恋人に電話をかけた。

だが、耳に入ってくるのは「おかげになった電話は、現在使われておりません」という無慈悲な機械音だった。連絡先をブロックされ、電話番号も変えられてしまったようだ。雪の目の前は真っ白になっていく。

元恋人とは、大学生の頃に彼から告白してきたことで交際が始まった。色んな場所へデートし、喧嘩をしてしまってもすぐに仲直りし、雪にとっては最高のパートナーだった。

(後輩の女の子を妊娠させたって、一体いつから二股してたわけ?二股する前に振ってくれればよかったのに)
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