17歳の秋、君と過ごした1泊2日。
そう。


今日はわたし達2年生が行く修学旅行当日。


今日から2日間、1泊2日で京都とテーマパークへ行く予定なの。


「べつにそんな緊張するもんじゃないでしょ、修学旅行なんて」


下駄箱で靴を履き替えながら言う桜を見る。


「わたしの場合は、楽しみすぎて逆に緊張してるんだよぉ…」


わたしの言葉を聞いた桜はニヤニヤしながら口を開く。


「へぇ、それは宮野 優(みやの ゆう)と一緒の班だから?」


な!?


「ちょっと桜声大きいってば!ここ下駄箱だし、それにもしここに本人が」


わたしがそこまで言った瞬間。


「おはよ、みゆ」


ーーードキッ


不意に聞こえてきた声にキュンとする。


低くて優しくて、わたしよりも高いところから聞こえてきたこの声は。


「…おはよう、優くん」


宮野 優くん。


わたしの隣の席の人。


そして、わたしの好きな人。


でも優くんは誰かのものにはならないし、誰かに独占欲を見せることもない。


なぜなら、来る者拒まず去るもの追わず主義のプレイボーイだから。


わたしの目線と同じ高さにある胸元には、第1ボタンが開いたシャツに緩めのネクタイ。袖のボタンを外して適当にまくっているのか、くしゃっと曲げたシャツからは男らしい腕が見えている。


綺麗な顔とのギャップに瞬殺される女子、多数。


制服を着崩してるのに清潔感があるのは黒髪だからかなぁ。


そんなことを考えていると、目の前にはわたしの顔を覗き込む優くんが。


近、い。


わたしを見つめる瞳に胸が高鳴り、思わず息をのむ。


「っ、なに、」


「みゆ、おはよう」


「え?さっき言ったよ?」


「んー、もう1回言いたかっただけ。じゃーね」


そう言いながらわたしの前髪をふわっと撫でた。


かと思えば、こちらを振り向きもせずに教室へと向かう後ろ姿。


え?


取り残されたわたしはキョトン。


…いやいやいやいや。
ここ普通に廊下のど真ん中なんですけど。


顔、近かったし。


わたしにおはようを2回言いたかったとか、絶対そんなこと思ってないでしょ優くん!


周りに目を向けると、女の子達がヒソヒソと話している声が聞こえる。


「なんであの子だけ呼び捨てなの?」


「あんな凡人レベルのスタイルの子、優くんが好きになるわけないでしょ」


なんかグサグサと刺さりまくる言葉がたくさんなんですけど。


あまりの一瞬の出来事にボーッとしていると桜に手を引かれる。


「教室行くよ」


その言葉に頷いたわたしは、とりあえずその場を離れて教室へ向かった。
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