致し方ないので、上司お持ち帰りしました




「私にとって、好条件すぎます……」

「俺にとっても好条件だよ?」


 真白さんにとっての好条件の定義がわからないが、その言葉で迷いはなくなった。


「……よろしくお願いします」


 頭を縦に大きく振っていた。好条件すぎて断るはずがない。


 そして、あわよくば童貞の真白さんを――。
 
 


「あ、でも。絶対にそういう雰囲気に持ち込まないこと。これは約束して?」

「そういう雰囲気とは?」

「俺、童貞だからさ。その……男女の関係には絶対になれないから!」


 「ぜったい」この4文字は強調されて、確固たる気持ちが伝わった。ここまで言い切られると逆に清々しい。少し芽生えた邪な期待はすぐに打ち砕かれた。
 

「えっと、それは、好きになってはいけないということですか?」

「俺は泉さんを好きになることはないから。好意を寄せられても、申し訳ないけど答えることはできない」

「……」

 きっぱりと言い放たれた。

 あれ。分かっていたことなのに、改めて言われると胸の奥が痛い。
 


「どうする? 無理にとは言わないよ?」


 絶対好きになってはいけない上司との同居生活。波乱が待ち受ける気配しかしない。だけど、この時の私には断るという選択肢がなかった。


 それは、元カレから逃れるため。
 そうだよ。そのためだけだ。


 そう何度も心の中で唱えた。
 芽生え始めた感情に蓋をするように。


「同居……させてください! よろしくお願いします」

 こうして、イケメン童貞上司との同居生活が幕開けした。
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