致し方ないので、上司お持ち帰りしました







あまりにも動揺をみせるので、その行動が意識的ではなく、思いがけずしてしまった行動だと悟る。


「ご、ごめんっ! 何してんだろう、俺」




 いまだに混乱しているようで、頭をぽりぽりとかきながら、行動に落ち着きがなくて慌ただしい。



「どうしよう。嫁入り前の()に手を出すなんて……。あー、明日親御さんに謝罪に行ってもいいかな?」



 自分のしたことを大いに反省しているようで、見当違いなことを言い始めた。声も表情もどこか弱々しい。



「あの。真白さん、キスくらいで親に謝罪はしなくていいですよ?」

「キスくらい?!」



 驚いた反応を見せるので、私の考えが間違っているのかと錯覚に陥る。


 冷静に考え直すと、やはり間違ってはいないと思う。うん、大人はキスしただけで親に謝罪はいらない。


「と、とにかく。大丈夫です! 皮膚と皮膚が触れただけですので!」

「皮膚と皮膚が触れただけ……」

「……はい」

「皮膚と皮膚が触れただけ……」




 真白さんは私の言った言葉を、力なく繰り返し唱えた。


「わ、私。今日は早めに寝ますね。おやすみなさい」

 まだ混乱している様子の真白さんを置いて、部屋へと逃げた。バタンとドアを閉めた途端に、力なくその場にしゃがみ込んだ。



 心臓が破裂しそうなほど、ドキドキしていた。
 深いキスをしたわけではない。ただ軽く触れ合うだけのキスだ。



 初キスなんて大昔に経験済みだし。
 今までに軽いキスなんて、何度もしてきた。


 なのに、真白さんに触れられた唇はやたらと熱かった。



 
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