致し方ないので、上司お持ち帰りしました
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 それからというと。どちらからもキスについて触れることはなかった。


 なぜキスをしたのか。気になったけれど、私から聞く勇気がなかった。聞いてしまったら今の関係が終わってしまうような気がして。今が幸せだと思う私に、聞く勇気は出なかった。


 気まずい空気を引きずりながら、数日が過ぎた。


 小さな違和感が徐々に膨らみ始める。真白さんが素っ気ない気がするのだ。
 夜ご飯は一緒に食べることが日課になっていたのに、最近はやたらと帰りが遅い。


 
 仕事を終えて帰宅すると、部屋が真っ暗だった。静寂が広がり冷え切った部屋はやけに広く見える。


 冷え切った部屋に照明の灯りをつけても、しんと静まり返った部屋はなんだか寂しく感じた。
 
 いつも真白さんと過ごした部屋は、1人だとこんなに広く感じるんだ。


『今日は何時に帰りますか?』
『今日は残業なので帰りが遅いです。先に寝ていてください』



 そっけないメールの返信が返ってきた。今日も帰りが遅いらしい。

 真白さんは営業部のエースだ。たくさんの顧客と案件を抱えている。忙しいのはすぐに理解出来た。


 今まで私より先に帰ってきたり、料理をする時間があったことが異常だったのかもしれない。



  
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