完全無欠な財閥御曹司の秘密は、私だけに××!
つい目を奪われていると、部長は、ん? と首をかしげて微笑む。
恋愛感情なんてないのにその綺麗な顔を見ると胸は勝手にときめく。
「お疲れ様です、部長。今日は上海から直行ですか?」
「あぁ、さっき空港についてすぐこちらに。土産も持ってきた」
「もしかして上海ガニですか?」
思わず聞いてしまうと、部長は「残念ながら違う」と笑った。
「交渉成立したって報告」
「あれ、本当に交渉できたんですか!」
隣で椎名さんが目を丸くして言う。私も心底驚いた。
交渉、とは誰もが無理だろうと踏んでいた上海広伸社との石油資源交渉だった。
もとは海外事業部の案件ではなく、資源開発部の案件だったもの。当初、上海広伸社側は日本企業なんて目もくれず、交渉の余地なしと思われていた。
それが突然、海外事業部も一緒に交渉してみてくれと白羽の矢が刺さった。みんな尻込みしたところを部長自ら手を上げ交渉に出向いたという経緯だった。
きっと元から部長目当てでうちに来た案件だったんだろう。
「押して、押して、押した感じだな」
「それで交渉成立しちゃうんだから凄いですよ」
「たまたまだ」
部長は何でもないように言う。
椎名さんは尊敬のまなざしで部長を見ていた。さすが部長、と声に出さなくてもその背中から伝わってくる。
椎名さん自身も凄腕で、交渉事はほとんど成功してるのに、その椎名さんが圧倒的に尊敬してる部長は、私にとって雲の上のまたその上の存在。
しかも彼が、鳳月グループ会長の孫で、株式会社HOUZUKI社長の息子だと言うのだから驚くしかない。
海外事業部に異動してきてまだ二週間しかたってない私もそのすごさは肌で感じていた。
「ボーナスは部の実績で決まるからな。期待してろよ」
「やった!」
椎名さんが喜んで声を上げた時、私も隣で、ヨシッと強くこぶしを握り締めていた。
本当に優しくて頼りになって、部のみんなに好かれてるいい上司。
ボーナスまであげてくれちゃうなんて、“今の”私には神様みたいな存在。
とにかく完璧な私の上司は、今日も完全無欠。
ーーしかし、この数時間後。完璧上司の秘密を知ってしまうことを、その時の私はまだ知らない。