私の幼なじみは超絶カワイイ天使ちゃん・・・だったはずなのに!?







学校に着いたら、転校生であるイオちゃんはともかく私は担任にしこたま怒られた。


そこまで怒らなくても……とは思いつつも、わけあって最近はなにかと遅刻しているから上には出れない。


そしてどうやらイオちゃんは私と同じクラスになるようで、私は担任に言われて先に教室を案内するようにとお願いされた。



「にしても、日本の学校って久しぶりだ。すごく楽しみ。」

「楽しみなら何よりだけど……あ。学校では私、イオちゃんって呼ばないから。」

「…………え。」



それはそれは親に捨てられた猫のような表情をするイオちゃんに内心くすりと笑うも、心配しないでと私は笑う。



「みんながいない時はちゃんと呼んであげるから。」



なんて微笑めば、少し考えるように俯くイオちゃんに、どうしたのかと首を傾げる。


しかし突然顔を上げたイオちゃんはいつにもなく真剣で、けれどもその瞳には絶対的ななにかがあった。



「……二人の時は、イオくんって呼んで。」


「え?えっと、なんでそんな突然……?」


「いつまで経ってもイオちゃん、なんて呼び方じゃカッコつかないでしょ?それとも……夫婦になったら伊織さん、なんて呼んでくれるの?」



突然そんなことを言うものだから、ぷしゅ〜っと顔が真っ赤になってしまって、ぽこぽことイオちゃんの胸元を叩く。


夫婦になる前提で話をしているイオちゃんには、本当にいつのまにか外堀から埋められてそうで若干の怖さも滲みつつも、かっこよさが全面的に溢れていて胸が締め付けられる。


そしてその横から突然声が聞こえてきた。



「オイ、いつまで俺の前でイチャイチャしてるつもりだ。ホームルームの時間はとっくに過ぎてるぞ。」

「ひぇっ!!」



二人の世界に入ってしまっていたためか、ハッとして先生の存在に気付かなかった私は驚いて声を上げる。


何よりも、強面で有名な担任がいたものだから、驚かない方が無理だろう。



「ごめんなさい、先生。俺がちょっと浮かれていただけなんです。」

「うんそうだろうな、まさか教師の前で堂々とイチャイチャするなんて思わなかったぞ。」

「まあ、ハルちゃんがかわいいから仕方ないよね。」

「いや仕方なくねえわ。ったく、とっとと席に着け〜!」



担任の指示のもと、クラスメイトたちは即座に席に着いて、私もまた自分の席に着く。


そうして教室にイオちゃんが入ってくると、女子は黄色い奇声を上げた。


それもそうだろう、なにせイオちゃんは昔から天使と呼ばれるほどかわいく顔が整っていて、成長した今も顔の良さは遠くからでも一目見てイケメンだと分かるくらいには整っているのだから。


黒板に丁寧に文字を書くイオちゃんは、改めて考えてみるとハイスペックだ。


一字一字が丁寧に書かれてある黒板から視線をこちらに向けて、挨拶をする。



「初めまして、俺は橘伊織。今日からこのクラスのクラスメイトになりました。よろしくね。」



優しく微笑むイオちゃんは、席に着くと授業時間まで女子に囲まれていた。


やっぱりモテるイオちゃんは、昔だろうが今だろうが変わらない。


その優しい温和な性格、人に教えられるほど要領の良い頭脳、運動神経もそれなりによくて、なおかつかわいかったあの頃のイオちゃん。


モテる理由は違えど、伊緒ちゃんのところに人が集まるわけは、そう言った魅力的な人だと思わせるせいかもしれない。



「ねえねえ、伊織くんは留学してたって聞いたけど、どこに留学してたの?」


「アメリカのカリフォルニア州だよ。最初は見知らぬ土地で慣れなかったけど、住めば都って言うからね。すぐに馴染めたかな。」



「伊織くんって肌綺麗〜!なにか化粧品を使ったりしてるの?」


「洗顔と化粧水は自社ブランドのものを使っているかな。」


「自社ブランド……!?」



突然そんな単語が出てきたことにその場にいた女子たちは驚くが、私もまた最初はそんな反応だよなぁ、なんてしみじみ思う。

そしてそんな反応をした私に、前の席の千織がニヤニヤした顔つきでこちらを見ていた。



「……なに、どうかした?気持ち悪いよ。」

「むっ。……知ってた?美人に真顔で気持ち悪いって言われる方が、そこらの女子にキモいって言われるよりも傷付くのよ。」

「だって、ニヤニヤ気持ち悪かったから。」

「仕方ないでしょ!ついにうちの春音にも春が来たかもしれないって思ったら、つい頬が緩んじゃって……」



私は千織のものじゃないんだけど、と内心ツッコミながらもそれはどう言うことなのかと彼女に問いただした。


あはは……なんて苦笑いする彼女こと中学校の頃からの親友である千織とは、中学一年生からクラスが一度も離れたことがないという、これまた珍しい親友だ。


そんな千織が春が来たかもなんて言うものだから、今は秋だけど?という視線を送る。



「でもまぁ、彼が前に言ってた幼なじみのイオちゃんなのね。」


「まあ、うん。」


「あの写真の子があんなカッコよく成長するなんて、そりゃ思えないわよねぇ。」



と言ってスマホを取り出した千織は、私とのチャット画面に送られた天使だった頃の画像と今のイオちゃんを見比べて、むむむっと眉を顰める。


そこに割り込んできたのは千織の恋人であり、私と部活が一緒な石原くん。


料理部の部長をしている彼とは、高校に入ってからそれなりに付き合いのあるクラスメイトだ。



「ま、私は大翔一筋だけどね!でも浮気したら親の会社壊すから。」

「あはは、俺も千織だけだよ。もし浮気したら全校集会であの写真ばら撒くから。」



後ろの方だけ声のトーンが下がっていた二人だけど、果たして本当にそこに愛はあるのか。


聞く所によれば愛の種類、形には様々なものがあるというが、私は恋して愛したり愛されたりするなら純愛がいいな、なんて思ってしまう。



「なんか……お互い命を握り合ってるように見えるんだけど、本当に愛はあるの?」

「「もちろん!」」

「ね〜、ダーリン!」

「そうだね、ハニー。」



初対面時からこうやって息はピッタリなので、仲は悪くないことは理解出来ていたが。


私には愛なんてちっとも分からないので、恋愛に関してはまだ疎いままだ。



「はぁ。」


「なによ、ため息なんて吐いちゃって。もしかして伊織くんのこと?」


「それ以外に何があると思ってるの……」


「ははーーん?」



またまたニヤニヤした表情で何か言いたげにするから気持ち悪いと一蹴するが、存外千織のこの距離感は嫌いじゃなかった。


千織は小学生の頃から彼氏からいたと言っていて、あの時はだいぶマセていたと言うが、その代わり人一倍恋愛感情に機敏だと言う。


中学の頃も彼氏を取っ替え引っ替えしていたそうだが、高校に入ってからは石原くん以外と付き合っているところを見たことがない。


そんな千織がなぜ私の親友なのかと聞かれれば、友達になった最初の理由として「恋愛について疎そうだから」というのが挙げられたりした。


他にも親友になってからはクラスがずっと一緒だったり、趣味が合っていたり、よく遊んだりしていたからいつのまにか、ということもある。


聞けば、「アンタを放っておいたら運命の相手じゃない相手と結ばれるかもしれない。」なんて意味深なことを言い出したり。


そんなわけで、中学の頃からずっと一緒だった私たちは親友になったのだが。



「いいじゃない、お姉さんに話してみなさい?」

「うんうん、お兄さんも話を聞くよ。」

「む、同級生のくせに……」



なんて眉を顰めれば、「はぁあ!?」なんて、突如大きな声が聞こえてきたのはイオちゃんの近くに集まっている女子たちと、その本人の声だった。


なんだなんだと他のクラスメイトもそちらの方面を見るが、女子たちはわなわなと震えるばかり。


どうしたのかと近くに駆け寄ってみれば、爽やかながらも甘ったるい声でイオちゃんは言い放った。



「ごめんね。俺の婚約者はハルちゃんだから、そういうのやめてくれないかな。」

「「「「……………こっ、婚約者ぁ!?」」」」



ギュッと私を抱き寄せて頭をこつんとすり寄せるイオちゃんに、私はパニックで頭が回らなかった。


クラスメイトのみんなもその発言には驚いたようで、クラス一同で叫び驚く。


無論私も驚いたためついポロッと「昨日、恋人から始めようって言ったばかりなのに……」なんて呟けば、イオちゃんは清々しいほど美しい笑顔のまま私を見つめた。



「恋人になるのは承諾したけど、婚約を解消するなんて俺は言ってないよ。」

「………物は言いようってこと?」

「本当に婚約を解消したいなら千秋さんや夏哉さんにお願いすればいいよ。でも、それをしないで俺にされるがままになってるのは、ハルちゃんだって俺に気を許してるところがあるからじゃない?」



確かに、そうかもしれない。


でも私は恋愛初心者だからどうすればいいのか分からず、どちらかといえばイオちゃんに好意を抱いているけど、それがどんな種類なのかはいまいち理解出来ていない。


けれど純然たる事実はあって……確かに私はイオちゃんだから、こんなふうに抱き寄せられても警戒せずすっぽりはまれるのかもしれない。


他の男子であれば、それこそ例え石原くんであっても少しは嫌がる素振りを見せてしまうだろうと思った。



「だって、仕方がないでしょ……イオちゃんってだけで私はなにされても許せそうな気がするもん。」



俯きながらそう言えば、顔は見えないがイオちゃんは驚いていた。

近くにいたクラスメイトはヒューヒュー!なんて野次馬を投げつつ、そのあとすぐに来た数学の先生によってみんなは軍隊のように着席したのだった。


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