私の幼なじみは超絶カワイイ天使ちゃん・・・だったはずなのに!?







ケーキ屋の近くまで行けば母が出迎えてくれて、イオちゃんに残り物のケーキを渡す。


今更ながらに大企業の御曹司に残り物を渡すとか母すごい根性しているな……なんて思いつつも、残り物とはいえどもうちのケーキは国内でも指折りのシェフたる母が作っているので、味は確かなものだ。


そうして戸締りを手伝った私は、母とイオちゃんと一緒に家まで帰ることに。


普段は二人で帰るところ、イオちゃんと一緒に帰れるという事実だけでなぜだかとても懐かしい気持ちになった。



「にしても、あなたたち一体どこまで進んだの?キスしちゃったり?」

「ゲホッゴホッ!?」

「あはは。流石に昨日の今日で手は出しませんよ、千秋さん。夏哉さんに怒られそうですし。」



突然そんなことを聞いてくる我が母にもだが、しれっと受け答えするイオちゃんにも私は驚き咳き込んだ。


そしてその言い方だとまるで、それなりに日数が経てばキスぐらい簡単にしそうな雰囲気に聞こえてしまって、少しだけ身体を強張らせる。


それに気付いたのか、イオちゃんは私を怯えさせないように優しい音色で言葉を紡いだ。



「あ。安心して、ハルちゃん。俺は無理に強制はしないから、嫌だったら嫌って言ってもいいんだからね。」



なんて言って王子様スマイルで微笑むイオちゃんは、けれどもその気になれば有無を言わさず奪われそうな気がして、警戒してしまう。


なにせ、ついさっきすでにキス……まではいかずとも有無を言わさない表情が目の前にあったのだから。


オンとオフでカッコいいイオちゃんとかわいいイオちゃんがいることを知ってしまったが、本気の時のイオちゃんは伊達じゃないと思う。


なんて引き攣った笑みのまま母の元に隠れれば、二人してキョトンとしたあと母はニヤニヤした表情で私をイオちゃんの元へつきだした。



「全くもう、私の子でありながらウブね〜!買い出しに行かないといけないし、邪魔者は退散しようかしら?」

「邪魔者だなんてそんな、良ければ荷物持ち手伝いましょうか?」

「んもぅ、伊織くんは春音と先に家に帰ってなさい!ああ、心配しなくても夏哉をスーパーに待たせてるから大丈夫よ。それに、」



そう言いかけた母に私は「それに?」と聞き返せば、またもやニヤついた表情のまま「なんでもな〜い!」なんて言って軽いステップで足早にその場を後にしてしまった母に、置いてかれた私たちは呆然と立ちつくす。



「じゃあ、千秋さんにも置いて行かれちゃったことだし、先に帰ろっか。」

「う、うん。そうだね。」



結局学校からケーキ屋まで来るのと同じく二人きりになってしまった私たちは、もう日が落ちて暗くなってきた空を見上げる。


そうしてふと思い出したかのようにイオちゃんに聞いたのだった。



「ねえ……イオちゃん、昔流れ星を見たこと覚えてる?」

「っふふ。覚えてるよ、俺も今同じこと考えてた。」

「えっ、ほんと!?」



そう返事を返した私は、柄にもなくはしゃいでしまって、思わずハッとし口を塞いでしまう。


そしてそれに気が付いたイオちゃんは再度ふふっと笑って、優しく私の頭を撫でたのだった。



「変わったね、イオちゃん……昔は私がイオちゃんの頭を撫でて慰めたりしてたのに。」

「成長したからね。今度は俺がハルちゃんの頭を撫でる番だよ。」

「背だって、ぐーんって伸びちゃって。」

「昔からハルちゃんの背だけは超えたいって思ってたからね。」

「顔や声だって、見違えるほどカッコよくなっちゃって。」

「そう言ってもらえて嬉しい。」



小さい頃によく家を抜け出して来ていた河岸までやって来て、ふと立ち止まって振り返ると、昇ったばかりのお月様がイオちゃんを照らしていた。


カッコよくて、かわいくて、何よりも優しいイオちゃん。


私が突然立ち止まったことに驚いたのかキョトンと首を傾げるその姿は、昔の癖が治っていないのか、やっぱりかわいくて思わずふふっと笑みがこぼれる。



「私は、まだ恋愛とか結婚とか分からないけど……イオちゃんと一緒にいれるならなんでもいいんだ。」

「大丈夫だよ。恋愛も結婚も、これから一緒に知っていけばいいんだから。」



優しく爽やかで甘ったるい音色でそんなことを言うイオちゃんには、本当に高校生かと疑うほどの包容力があって、優しく私を抱きしめてくれた。


そうして話題を変えるように、さっきの流れ星について話そうとした時だった。



「ママー!あっちでハル姉ちゃんと知らないお兄ちゃんが抱き合ってるー!」

「こらっ!!」



突然、小学校中学年くらいの男の子がそんな大声で私たちの方を見ていた。


よく見ると近所の家の子で、私はぽぽぽっと顔が真っ赤になる。


一体今日だけで何回顔が赤くなっただろう、なんて思いつつも、ヒューヒュー!なんておちゃらけるその子の言葉に、急に自分たちが外でなにをやっているのかということに改めて気付いて、咄嗟にイオちゃんと距離をとる。


そんな反応をした私に驚いたのか、イオちゃんはけれども恥ずかしがったような素振りは見せず、目をぱちくりと瞬きしたあとに参ったなあ、なんて頬をかいていた。



「あの子、知り合い?」

「う、うん……近所の子。赤ちゃんだったから覚えてないかもしれないけど、向かいの佐渡さんちの子だよ。」

「へぇ、あの時の赤ちゃんね。」



興味深そうにイオちゃんはあの子のことを目で追っていて、ふいに私のことを抱き寄せると私に顔を見せないまま私の耳元にキスをし、得意げな表情をする。


ぞれに気付いた男の子は目を見開いて、口をはくはくしたあと呆然と立ちつくす。


突然耳元にキスを落とされた私もまた理解が出来なくて、見上げたイオちゃんに対して目をまん丸にし口をあんぐりさせるも、その表情を見たイオちゃんはくすりと笑うだけだった。



「な、なんで、突然……?」

「んー。ハルちゃんは俺のものっていう、マーキングかな。」

「まっ!?」



そんなことを言い出したイオちゃんに驚くも、おかしそうに笑うイオちゃんは河岸の上の方にいる男の子を見て、ふと得意げなしたり顔をする。


しかしそれに気付かない私は男の子が目を丸くさせて逃げるように走り去っていくのを見て、本当にどうしたんだろうかと思った。



「ハルちゃんが魅力的なのは分かるけど……俺だけのものだから、君には渡さないよ。」



ぼそっと何か言っているのが聞こえたが、内容までは理解出来ず、次の瞬間にっこり笑ったイオちゃんは早く帰ろうと言ってきた。



「そうだね、お風呂の準備もしないと……あ、今日は泊まって行く?」

「泊まりたいのは山々だけど、千秋さんと夏哉さんに迷惑だろうから……今度、俺の家に泊まりに来てよ。」

「イオちゃんの家?」



不思議そうに聞けば、こくりと頷くイオちゃんに私は驚いたように相槌を打った。


しかし大企業の御曹司であるもの、確かにこの辺りが高級住宅街と呼ばれる場所であっても、高校生になって留学までしていた息子に新しく家を買い与えるのも難しくない話なのだろうと思った。


でも問いかけた答えは、普通であれば考えられないほどスケールが広大で、さすが御曹司だと思った。



「海外に留学している間、とある事業を始めてね。そこのトップをしているんだけど、その時に稼いだ収入でマンションを買ったんだ。」


「わ、私のイオちゃんが、こんなにもすごい……」


「ハルちゃんの未来の旦那様だからね、これくらいは朝飯前だよ。」



未来の旦那様という言葉にぼんっとまたまた顔が赤くなって、ポコポコ胸元を叩くも、イオちゃんは楽しそうに笑うだけだった。


それから、さすがにもうこれ以上時間は無駄に出来ないと言って帰路へと足を進めた私たちは、他愛ない私の話をしたり、留学中の話を聞いたりして、家に帰ったのだった。



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