私の幼なじみは超絶カワイイ天使ちゃん・・・だったはずなのに!?
訪問とハプニング!?
◇
イオちゃんが帰国してはや一週間と少し。
秋の定期テストも終わり、秋の二大学校行事のうちの一つもひと段落したところで、イオちゃんに次の三連休に都内の前に言っていたマンションへ行くのはどうだと誘われた。
私は断る理由がなかったため一言で返事を返したのだが、都内というとこれまた地方からだと少し遠くて、近くのホテルに2泊ぐらいして行くことをチャットでイオちゃんに伝える。
すると返ってきた返事に、私は少し驚いた。
『それならマンションのゲストルームなんてどう?下の階にあるから、簡単に行ったり来たり出来るし。』
それはいい案だと思って、懐が少し痛いながらもお願いする旨を伝えれば、またまた私は驚く。
『気にしないで。ここは俺が買ったマンションだから、俺が払うよ。』
「えっ。」
流石に宿代を払ってもらうのは気が引けたため、焦って「ダメだよ!」とチャットの文字を打とうとすれば、誤タップしてしまって意味不明の文字を送ってしまい、自分でも頭を抱える。
チャットにクエスチョンマークのかわいいスタンプを送ってくるイオちゃんは、念押しして「本当に気にしないで。」なんて言うものだから、マンションに行く際には崩れにくいケーキを作って持って行こうと決意したのだった。
◇
連休当日。
都内の駅前で待ち合わせの約束をしていた私は、仕事で少し遅れるというイオちゃんを待っていた。
どうやら、イオちゃんは学校のない日……あるいは休み時間はほとんど暇をしていないみたいで、今日も私が来る前の午前中は忙しかったのだとか。
そんな中来てしまって申し訳ないと思いつつも、あまり見慣れない都会の街並みに胸が躍る。
スマホ片手にイオちゃんを待つも、まだ数十分ほど遅れてしまうとのことで、「先にお店を見て回っていてもいいからね。」なんて言われた私だが、駅から離れてはぐれるのも嫌なのでこのまま待っていることにした。
すると10分ほど経った頃だろうか。
チャラそうな青年が二人、私の前に近づいてきて、話しかけてきた。
「ねえねえ、お姉さん!10分前からここにいるけど、もしかして暇してる?」
「俺らと一緒にお茶しにいこうよ。」
いわゆるナンパというやつだろうか、なんて思いつつ、よく田舎者の私を誘う気になったな……なんて視線をスマホに移して流し聞きをしていれば、男の一人が腕を掴んできた。
突然のその行動に驚いて思わず顔を上げてみるも、ニタついた表情の青年たちは離してくれそうにない。
「お、やっとこっち見てくれた。どう?行く気になった?」
「腕、離して……」
「なになに?よく聞こえなかったんだけど、俺らと一緒に行ってくれる感じ?」
ぐいぐい迫ってくる青年二人に、涙目になりそうなのを堪えつつ、「イヤ、だ。」と少し低いトーンの声で拒んだ。
しかし青年二人は聞く耳を持たず、腕を引っ張ろうとする始末。
周りの人が見ているというのに気にもとめない青年二人に恐怖を覚えて、か細く「助けて……!」と言葉にしたその時だった。
突如現れた青年二人の後ろからの影に、その影がイオちゃんだと言うことに気付いて、顔を輝かせたのも束の間だった。
強引に青年二人の手を私の腕から離して、普段からは考えられないほどドスの効いた声音をしたイオちゃんに、心の底から驚く。
「その汚い手で彼女に触れないで。あとこの子の隣は空いてないから、もし奪う気ならさっさと森へ帰ってくれないかな?……力が強いだけの獣は嫌われるよ。」
その高身長を活かして青年二人の腕を持ち上げたあと強く振り解いたイオちゃんは、そのあと血相を変えて怪我はないかと心配してきた。
優しい声音のイオちゃんに安堵のため息が出てしまうも、そんな中でいつのまにか青年二人はいなくなっていることに気づき、イオちゃんの怒った顔はどれだけ怖かったのだろうかと頭を悩ませる。
「心配しないで。大丈夫、どこも怪我してないから。」
「でも……」
「というか、イオちゃんの方こそ仕事は大丈夫なの?数十分かかるって……」
「あはは……部下に言って先に切り上げさせてもらったよ。今日は三連休だし、別に大した用事じゃなかったからね。」
それもそうだなんて納得すれば、改めてよく見ると見慣れないスーツ姿のイオちゃんに、思わず魅了されて呆然と息を漏らす。
やっぱり見た目がいい人は違うなあ、なんて思いつつも、イマジナリー千織に『アンタも人のこと言えないわよ。』なんて言われて苦笑する。
とはいえ、心の中で私にそんな自覚はないんだけど、と言い返すが。
「さてと、じゃあそうだね。お昼でも食べに行く?」
「行く〜!」
「よかった、景色のいい俺のおすすめの店があるんだ。お腹もすいてきたし、今の時間帯はちょうど人も少なくなってると思うから今のうちに向かおうか。」
「もう2時前だからね。」
とまあ、そんなわけで駅の最上階に位置するレストランに行くことになったのだが、着けばそこは高級なフランス料理レストランだと一目見て分かるもので、窓からの景色もよく、黒服の方の接待もとても良かった。
フランス料理は料理部ということもあり、家柄ケーキ屋ということ、なにより部長である石原くんがフランス料理店の息子ということでそれなりに作るのも食べるのも慣れていた。
よく千織と一緒に味見させてもらってよかった……なんて思いつつ場に出た料理を食べていき、意識を現実に戻せば、最後にやってきたのはお待ちかねのスイーツだった。
ケーキ屋の娘たるもの、色とりどりのマカロンと、この何よりも豪華で美味しそうなフォンダン・オ・ショコラに釘付けとなった。
「い、いただきます……」
「ふふ、どうぞ召し上がれ。」
ごくり、と息を呑んで、ナイフとフォークをケーキに差していけば、中からとろっとしたチョコレートが出てきてぱぁっと顔を輝かせる。
なにせチョコレートが大好物な私は、ケーキ屋の娘という立場から身内以外が作ったフォンダン・オ・ショコラをあまり食べることがなく、こうやってレストランなどに行くとケーキがあることに感動してしまうのだ。
身内のケーキが美味しくないと言っているわけではないし、なんなら最上級のおいしさだと自負しているが、それとこれとは別で他の人が作ったケーキというものを味わってみたかった。
だから、目を輝かせながらぱくぱくおいしそうに食べる私の姿は、きっと今誰よりもケーキをおいしく味わっているのだと思う。
なにせ、無駄に舌が肥えている私にとってもこの店のケーキは格別だったのだから、100点満点したいぐらいだ。
「ハルちゃんは、チョコレートを食べるときはいつも本当においしそうな顔をするよね。」
「う。だって、本当においしいから……」
「それはよかった。実はこの店、俺の事業の一環の店でね。今日は急遽ハルちゃんが来るってなって、シェフ直々に教えてもらったんだ。」
「え?……じゃ、じゃあまさか、今さっき遅れるって言ってたのは。」
「飾りつけに時間がかかっちゃってね、きっとハルちゃんはいちごとチョコレートの組み合わせが好きだろうから、スーパーまで買いに行ってたんだ。でもまさか、駅前に着いたらあんなことになってるなんて……俺が遅れたばかりに本当にごめん。」
なんて謝るイオちゃんに、私はイオちゃんのせいじゃないよと必死に説得するも、「約束の時間に遅れるのはよくないよね……」だとか「俺が迎えにきてなかったら……」だとか呟いていて、完全にテンションダダ下がりモードに入っていて、私はそんなイオちゃんの頬を両手でパチンと叩く。
「たらればの話は聞きたくない。それに、結果的にイオちゃんが助けてくれたんだから、私はもう大丈夫だよ?だから安心して。」
「ほんと?」
「ほんとだよ。」
「どこも痛くない?」
「痛くないよ。なんてったって、あの時のイオちゃんは王子様みたいに助けてくれて、すごくカッコよかったんだから。」
そう言う私に、キョトンと目をまん丸にさせたあとイオちゃんは思わずくすりと笑って、「それならいいんだ。」と言った。
王子様発言に対して明らかに反応していたことに気付き、やっぱりチョロいところは変わってないなあ……なんて思いつつも、ぱぁっと顔を輝かせて表情に花びらをエフェクトとしてつけるイオちゃんは、かわいかった。
昔はよくお姫様と言っていたが、それは今の彼には似合わない。
かわいいのは相変わらずだが、今の彼はきっと王子様に相応しい役回りをしてくれているのだから。
となるとさしずめ私はお姫様か……なんて思って、昔とは立場が逆転してしまったなあ、と思い馳せる。
そうして思い出した昔のあれやこれに、私は思わずくすりと笑ってしまった。
「ハルちゃん?どうかした?」
「ううん、なんでもないの。」
わけが分からないと言った表情で首を傾げるイオちゃんに、私は「気にしなくていいよ。」と言って、イオちゃんの作ったフォンダン・オ・ショコラを味わった。
そうして、雑談しながらスイーツを食べ終わったころだろうか。
気がつけば時刻は3時前になっており、「どこか行きたい場所はある?」なんてイオちゃんが聞いてくる。
「うーん。せっかく三連休で都内までやってきたから、スカイツリーを観光してみたい。」
「分かった。人が多いから、あまり俺から離れないでね。」
お会計はイオちゃんの自己負担ということで、私にはなにも払わせてもらえなかったが、あとでとびきりかわいいケーキを渡すので、これで許して欲しい。
あの様子だとイオちゃんはスカイツリーに行っても私に払わせてくれないだろうから……と思うと、もういっそのことお土産だけ買って自分の分はまた今度にしよう、なんて思ったり。
しかし、そこからは怒涛の御曹司ムーブだった。
スカイツリーでチケットを購入し、一通り見て回ったまでは良かったのだが、ソラマチに戻って私が思わずかわいくて目移りしちゃうようなものをいつのまにか怪しげな黒いカードで箱ごと購入していたり、その容姿端麗さも相まって女性店員からの反応もよく、ついついたくさん買ってしまったイオちゃんと私は紙袋を両手じゃ持ちきれないほど持っていた。
「イオちゃん、それ重くない?大丈夫?」
「気にしないで。前にも言ったけど、俺も鍛えてるからこれくらいは平気だよ。」
なんて平気そうにへらりと笑うイオちゃん。
ソラマチも一通り回り、さすがに私も疲れたことを感じとったのか、すぐに気付いたイオちゃんは白いベンツで迎えを呼んだらしい。
田舎の町でこういう高級車は滅多に見ないことから、改めてイオちゃんの御曹司さが半端ないなと思った。
とまあ、そうして三連休での都内一日目の予定は、本題のイオちゃんのマンションへ行く以外すべて終わったのだった。
◇
イオちゃんが買ったというマンションに無事着けば、私はとりあえず荷物を置こうと先に家へ上がらせてもらう。
ちなみにイオちゃんはコンシェルジュに宅配があるからと言い、一度部屋に着いてまた下の階へ行ってしまったのだが、部屋の中から音が聞こえてくるのを知って、首を傾げる。
テレビでも付けっぱなしなのだろうか、なんて思ってリビングを開ければ……
「…………え。」
「は?」
バスタオル一枚の美少女がそこにいて、私は息をすることを忘れそうになるくらい頭が真っ白になったのだった。