敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 母が遊園地など連れて行ってくれるはずもなく、幼い頃に一度せがんだが『わがまま言わないでよ。なんでせっかくの休みの日に、あんな疲れるところにお金を払ってまで行かないとならないの?』と取りつく島もなかった。

 そこで諦めずにお願いを続けられるような子どもでも親子関係でもない。同じことを繰り返したらもっときつい言葉を浴びせられるのは、わかっていた。

 わがままを言っちゃだめだ。おかあさんを困らせたらいけない。

 子ども心に必死に言い聞かせ、それから大人になって自分の意思で好きなところに行けるようになっても、あえて遊園地に行こうと思わなかった。

「あ、まずはシャッツィのしているエリアを見に行きましょう」

 気を取り直して隼人さんに告げる。ここに来た目的を果たさないと。

 パンフレットに視線を落とすと、不意に肩を抱かれ驚きで顔を上げる。

「未希の行きたいところを回ろう。まずはその噴水なんだろ?」

 足早に歩を進めようとする隼人さんに、目を瞬かせる。

「え、いいえ。大丈夫です。そこまでじゃなくて……」

「楽しみでいろいろと調べた成果を見せてくれるんじゃないのか?」

 茶目っ気混じりに返され、言葉に詰まる。ひそかにインターネットでこの遊園地の情報や楽しみ方を調べてまとめておいたのだ。

「隼人さんと出かけるのも、すごく楽しみしていました」

 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟く。すると肩に回された腕の力が強められた。

「俺もだよ。だから未希が楽しんでくれるのが一番なんだ」

 優しい表情に、胸が高鳴る。頬に触れる空気は冷たいのに、隼人さんと密着した部分はどこまでも熱かった。
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